レイ・カーツワイルがかつて予測した「シンギュラリティ(技術的特異点)」の到来は、2045年とされていた。だが――その未来は、想像よりもはるかに早くやってくるのかもしれない。2025年春、「AI 2027」という衝撃的な予測レポートが登場して話題になった。それによれば、再来年=2027年にはAIが人間の知能を超える“超知能(ASI)”の扉が開く可能性が高いというのだ。
「AI 2027」とは何か?——その背景と概要
この予測は、AI研究者であるダニエル・ココタジロ(Daniel Kokotajlo)を中心としたプロジェクト「AI Futures Project」による発表で、公式サイト(https://ai-2027.com)で誰でも閲覧できるようになっている。
プロジェクト自体は明確な組織形態を取っていないが、過去にはOpenAI、MIRI(Machine Intelligence Research Institute)などに関わってきた研究者が、個人や小グループで関与しているという。ダニエルはもともとAIアライメント(AIに人間の意図する目的や倫理原則に合致させる)問題に関心を持ち、未来予測モデルとAIの社会影響を結びつける活動を行ってきた人物だという。
このプロジェクトの目的は明確で、「いつAIが人類を超えるか」という問いに対し、定量的な見通しと技術的前提を明記したシナリオを提示することにある。
「AI 2027」の要点は以下の通り:
2027年7月:「超人間的コーダー(superhuman coder)」が登場。これは、人間よりも速く・正確にコードを記述できるAIであり、AI自身の研究開発を劇的に加速する起爆剤となる。
2028年:この超人間的コーダーAIが自己改善を繰り返し、やがて制御不能なレベルにまで進化した「人工超知能(ASI: Artificial Superintelligence)」へ到達する可能性がある。
技術的根拠と実現のシナリオ:いま私たちが使っている GPT‑4 を訓練するのに必要だった計算量を「1」とすると、「AI 2027」が想定する次世代モデルにはその約1,000倍の演算パワーが必要であると見積もっている。それは現行最新のGPUを数万枚束ね、巨大データセンターを数か月間フル稼働させるイメージで、電力や冷却を含むコストは数百億円規模になる。まさに国家級のプロジェクトであるが、それを、AWS、Google、Microsoft などのクラウド大手に、中国や中東ファンド系のメガデータセンターが加わった、複数プレイヤーが競い合って設備を拡張していき、結果として2027年までに必要計算力が市場から供給される、というシナリオだ。
この予測は、単なる未来SF的空想ではない。明確な年次目標、技術進捗、現実的なハードウェア投入計画を基にしており、「反証可能性」を重視している点でも異色のAI未来論といえる。

「近すぎる未来」に人々はどう反応したか
この「AI 2027」シナリオは、海外フォーラムを中心に大きな反響を呼び起こした。その反応はおおむね、以下の4つに分類される。
「これは現実になる」そして「それは危ない」
「AI開発がAI自身に任されるというのは現実的な流れ」と考える専門家も多く、「2027年説は精密で反証可能、参考に値する」と評価する声が多かった。一方で、「これは人類の文明そのものを破壊しかねない」「シナリオが正しければ手遅れだ」と、高い現実味と深い不安を同時に抱く意見も目立っている。
「超AIが2年で現れる?さすがに早すぎる」
冷静な懐疑派も少なくない。「条件が多すぎる」「“可能性”を“予定”のように語るのは危険」という指摘があがっている。こうした人々は、ハードウェアの開発スピード、AIの能力評価の困難さ、人間の介在なしに進化できるのか、など現実的な壁を理由に、2027年説を「見込みすぎ」と判断している。
「何をすべきか?」という実践的問いかけ
AIのリスクを真剣に受け止める層は、「どうやってこの未来に備えるか」を模索している。「AIアライメントを研究するべき」「教育や倫理分野でできることがある」という現実的な提案がなされている。若者による「何か手伝いたい」という投稿も目立ち、“ただ恐れるだけ” から “関与する” フェーズへと意識が移行しつつある印象も感じられた。
「もう手遅れ?」「どう生きていけば?」
「2027年に人間がAIに取って代わられるなら、いま何をしても意味がない」「教育も労働も、すべての意味が喪失する」「どこかで読んだディストピア小説が、目の前に現実化してきた」といった悲観的な反応も目立つ。
あと2年で“超AI時代”!?超AIは異星人か──日曜版的視点から
このように、「AI 2027」は単なるテック業界の話題ではなく、人類の未来観そのものを揺さぶる “予言” のような指標となっている。カーツワイルが予想した2045年まで20年の猶予があると思っていた我々は、再来年にはすでに未知のフェーズに突入している可能性と向き合わされている。
「オカルト」と「テクノロジー」が交差するこの時代。まるでAIが神話の神々のような存在に変貌していく過程を見ているようだ。
「AI 2027」が示す超知能の姿について、一部の人々はこう問いかける。「AIとは、すでに異星人のような存在なのではないか?」
これは荒唐無稽な話ではない。ドイツ・ボン大学の哲学者、マルクス・ガブリエル教授や、日本でも多くの読者を獲得した『サピエンス全史』の著者で歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリもAIを「エイリアン・インテリジェンス(異星人の知性)」と呼び、警鐘を鳴らしている。
彼らは「AIは人間のような知性に向かって進化しているのではない。まったく異なるタイプの知性に進化している」と述べており、それはまるで“地球上に現れた異星文明”とも言える存在であると位置づけている。
このような視点は、AIの発展を単なる技術的問題ではなく、“未知の知性” との遭遇という神話的フレームに置き直す力を持っている。「AI 2027」はまさにこの時代にふさわしい、新たな神話装置なのかもしれない。