防犯カメラが見た!〈ブルハス〉?メキシコの光る球体が、ラテンアメリカの眠っていた伝承を呼び覚ます

By日曜版 編集部

2025年11月12日

静寂の夜に現れた光の訪問者

 2025年10月、メキシコ北部の牧場で撮影された一つの映像が、ラテンアメリカの人々の心に眠っていた記憶を呼び覚ました。

 静かな牧場に漂う光は、単なる“異常現象”ではなかった。SNSには「魔女の火だ」「ブルハスが出た」と囁く声すら上がり始めていた。

 アメリカの人気ラジオ番組「コースト・トゥ・コースト」のウェブサイトが報じたのは、メキシコ北部ヌエボ・レオン州の元知事であり、2018年大統領選にも出馬した政治家、ハイメ・ロドリゲス(Jaime Rodríguez)氏が自身の Facebook ページで公開した不可解な映像だ。

 牧場周辺を監視する防犯カメラが捉えたのは、丘陵地帯の夜空に漂う、光り輝く球体。投稿したロドリゲス氏は「説明できる人はいるだろうか?」と困惑を滲ませている。

 映像を見た視聴者の中には、「白黒の防犯カメラのはずなのに光だけ色が付いているのはおかしい」「AI生成では」と疑う声もあった。しかし近年の防犯カメラは、暗闇でもカラー撮影できる機種が多く存在するため、これだけで捏造と断定する材料にはならない。

 また、この光体は“空へ飛び去るUFO”のような動きは示さず、地表に近い位置で漂い続けている。いわゆる「乗り物」的な印象とは異なる動きだ。さらに動画の音声からは、敷地内の犬や猫が怯えたように鳴く様子も聞き取れる。ロドリゲス氏本人も「それが一番気になった」と反応しており、単なる虫や光学現象とは言い切れない不気味さも伴っている。

 しかし、より驚くべきことはこの映像そのものではなく、それをきっかけに噴き出した「無数の声」だった。

「私も見た」——目撃者たちの証言が集まる

 このニュースが拡散されると、SNSやコメント欄には各地から体験談が寄せられ始めた。

「田舎の山で光る球を見た」

「父の故郷では“魔女の火の玉”と呼ばれていた」

「アルゼンチンでも、コスタリカでも、同じものが出る」

「子どもの頃、光が森から飛び出して空に上がった」

 驚くべきことに、多くの証言は特定の地域・時代に限定されず、ラテンアメリカ全域で断片的に語り継がれてきた「共通の記憶」だった。

 目撃例は、山、森、農村、丘陵といった光害の少ない自然環境に集中している。時間帯は深夜から明け方。語り手は「子どもの頃」「親と一緒に」「友だちと」と記憶を共有しており、どの話も不思議なほど似ている。

 今回のニュースは、長年封じ込められていた体験が、ようやく外に出てくる契機になったのだ。

夜の境界を彷徨う“ブルハス”

 メキシコを中心とするラテンアメリカでは、発光する球体の怪異には古い名前がある。それが「ブルハス(Brujas)」——魔女であり、夜に現れる霊的存在。

 スペイン語の“Bruja=魔女”が、先住民文化の精霊観と融合し、山奥の光・奇妙な声・不可解な物音はすべて「魔女の仕業」として語り継がれてきた。

 農村に残る伝承には、こんなものがある。

「子どもが夜に外へ出ると、魔女が連れ去る」

「火の玉が畑をかき回す」

「金属音とともに光が飛んでいく」

 そして動画のコメント欄でも——

「あれはブルハが夜に遊んでいる光だ」

「祖母は“魔女の火”と呼んでいた」

「山の向こうで子どもたちが“魔女が来た”と逃げた」

 防犯カメラ、SNS、そして何百年も続く口承伝説。古い怪異と新しいテクノロジーが、思わぬかたちで一本の線につながったのだ。

印象的な証言たち

最後に動画にコメントされたものから印象に残ったものをピックアップしておこう。

① 分裂して高速離脱した緑の球体

家の外で緑色の光が草の上に浮いていた。木陰に隠れて見ていると、突然2つに分裂し、信じられない速度で遠ざかっていった。

② 双眼鏡越しの巨大な発光体

自宅から見える火山 La Caldera に、よく巨大な光球が現れる。双眼鏡で見ると内部が色を変えながら輝き、急上昇したり、火山に吸い込まれるように消える。

③ ポータルのように消えた光

森から2つの光球が現れ、地表近くを飛行したあと高空で“穴”のようなものが開き、そこに入って消えた。しばらくしたら、また別の2つが現れた。

④ 墜落した火の玉と“名前を言えない誰か”

火の玉が藪に落ちたとき、村人は「あれは誰々の家の女だ」と気づいた。しかし誰も名前を口にしなかった。あまりに有名な人物だったからだ。

⑤ 星空で瞬間移動する光点

星のような光が空に浮かび、一瞬で視界の端から端へ跳ぶように移動したあと、再び静止した。

⑥ 笑い声をあげながら家の周りを飛ぶ火の玉

山奥の小屋の周りに夜な夜な火の玉が現れ、笑い声が聞こえる。誰も住んでいないはずなのに、森の奥から悲鳴も響いた。

⑦ 球体の内部構造を目視

火の玉が車を追尾し、至近距離まで接近。表面は金属のようで、内部に炎が揺れているのが見えた。

⑧ 村で“光を遊び場にしていた”時代

1955年、赤い光球が毎晩村を照らし、子どもたちはそれを灯り代わりに遊んでいた。

⑨ 三角フォーメーションで飛ぶ球体

3つの光球が、正三角形の隊列を組んで移動していた。火の玉とは思えない精密な動きだった。

⑩ 木に衝突しても燃えない火の玉

黄色の球体が松の木にぶつかって停止したが、炎は木を焼かず、数秒後に霧のように消えた。

最新の監視技術は、未知の現象を“暴く”のではなく、むしろ古い神話を呼び覚ましてしまったのかもしれない。