ケックスバーグ事件とムーンダスト計画──ペンシルベニアに落ちた“謎のドングリ”型物体

By日曜版 編集部

2025年8月25日

1965年12月9日、アメリカ・ペンシルベニア州ケックスバーグの森に「火の玉」が落下し、住民が謎の物体を目撃した。目撃証言によれば、それは巨大な「ドングリ型」の金属体で、側面には象形文字のような刻印が刻まれていたという。軍が直ちに現場を封鎖し、物体をトラックで運び去ったとされ、いまも「ペンシルベニアのロズウェル事件」と呼ばれている。

火の玉の墜落と住民の証言

 1965年12月9日夕方、五大湖上空を横断する大火球が各地で観測され、やがてケックスバーグの森に落下したとされる。現地の住民たちは「地響きと煙」「低空を飛ぶ謎の物体」を目撃。消防隊員のジェームズ・ロマンスキーは「半分地中に埋まったドングリ型の金属体」を見たと証言し、側面には古代エジプトのヒエログリフのような模様が刻まれていたと語った。

 一方、別の住民は「青白い光が点滅していた」「飛行機ともロケットとも違う物体」と証言している。こうした複数の証言は後年のドキュメンタリーやテレビ番組でも繰り返し取り上げられ、事件の神秘性を強めてきた。

軍による封鎖と物体の搬出とブルーブックの調査

 落下直後から州警察と米軍が現場を封鎖し、放射線計測器を用いた調査が行われたとされる。住民たちは「軍がフラットベッドトラックで巨大な物体を運び去るのを見た」と証言しており、この場面は事件の核心部分として語り継がれている。

 事件はまた、米空軍による公式UFO調査計画 「プロジェクト・ブルーブック」 の記録にも含まれている。ブルーブックの調査官は「火球(ボリド)の可能性が高い」と結論づけたが、住民証言との齟齬は解消されないまま処理された。ブルーブックは1969年に終了したが、ケックスバーグ事件はその中でも特に論争を呼んだ事例として位置づけられている。

出典:YouTube

ロシア衛星「コスモス96号」説

 事件直後から浮上した有力な説明のひとつが、ソビエトの無人探査機「コスモス96号」の破片落下説である。コスモス96号は金星探査を目的とした機体で、1965年12月9日に制御不能となり大気圏に再突入していた。形状も「ドングリ型」と近似していたことから「ケックスバーグに落ちたのはコスモス96だったのでは」と考えられた。

 しかし、後年の軌道解析では「ケックスバーグに落下した時間帯と場所が一致しない」とされ、NASAや天文学者の多くはこの説を退けている。とはいえ、当時の冷戦下においてソ連製機器の落下は極秘事項であり、軍が迅速に現場を封鎖した理由のひとつとして根強く語られてきた。

ラジオ記者ジョン・マーフィーの謎と、テレビ番組による伝承化

 事件当夜、地元ラジオ局の記者 ジョン・マーフィー が現場に駆けつけ、住民インタビューや写真を収録したとされる。彼は後に特別番組「Object in the Woods」を制作したが、放送された内容は「決定的な部分が削除されていた」と証言されている。関係者の中に「軍によってテープや写真が押収された」と語る人もおり、マーフィー自身もその後しばらくして事故死を遂げたため、真相は闇に包まれたままだ。

 ケックスバーグ事件はその後、1990年代にアメリカのテレビ番組 『Unsolved Mysteries(未解決ファイル)』 で取り上げられ、再現ドラマとともに「ドングリ型UFO」の模型が制作された。この模型は現在もケックスバーグの町に設置され、事件を象徴するモニュメントとなっている。以後、各種ドキュメンタリーやUFO特集番組で繰り返し紹介され、事件は「ペンシルベニアのロズウェル」として大衆文化の中に根付いていった。

NASAをめぐる訴訟と資料の消失

 2003年、ジャーナリストのレスリー・キーンは情報自由法(FOIA)に基づき、NASAに事件関連の資料開示を請求。しかしNASAは「関連ファイルは見つからない」と回答したため、訴訟に発展した。

 2007年、連邦裁判所はNASAに対し「徹底的な再調査」を命令した。NASAは弁護士費用を含め約5万ドルを支払い、2009年に捜索を終えたと発表した。しかし結局「決定的な証拠」は見つからず、事件当時に存在していたはずの2箱分の書類が紛失していることだけが明らかになった。

浮かび上がるムーンダスト計画

 しかしその後、この事件に関わったのはNASAではなかった可能性が浮上してきた……。

現場に姿を見せた「NASA職員」は、実は米空軍の極秘プログラム「ムーンダスト計画(Project Moondust)」のチームだったのではないかと指摘されている。

 ムーンダスト計画は冷戦期に実在した公式プログラムであり、陰謀論的な想像ではない。米空軍が1953年に立ち上げ、大気圏に再突入した人工物や宇宙残骸を迅速に回収・分析することを任務としていた。ソ連の衛星やロケットの残骸を押さえることが主眼だったが、UFO研究者たちは「墜落した異星由来の物体も対象だったのでは」と注目してきた。ケックスバーグ事件での軍の異常なまでの迅速さと物体搬出の証言は、このプログラムの存在を裏付けるかのように語り継がれている。

 そして興味深いことに、近年になっても「墜落したUAPを部隊が回収する映像」がリークされ話題になっている。公開された映像の真偽は検証中だが、リーク元は「UAP回収部隊に所属していた」とされる人物であり、冷戦期のムーンダスト計画と“現代の回収作戦”が重ね合わされる格好となっている。

 冷戦期に運用されていた“再突入物体回収プログラム”Project Moondust” の詳細は、情報公開法によって公開された外交ケーブルや軍文書として現存している。これらは Internet Archive『Moon Dust Files』で確認できる。

未解決のまま残された謎

 「火球」か「ソ連衛星」か、あるいは「地球外からの飛来物」か。ケックスバーグ事件は科学者による合理的説明と、住民の生々しい証言、そして軍の迅速すぎる対応の間に大きなギャップを残した。

 さらに、ジョン・マーフィー記者の不審な取材記録、テレビ番組による伝承化、そして実在したムーンダスト計画の影――。これらが複雑に絡み合うことで、事件は単なる火球落下の域を超え、半世紀以上経った今なお未解決事件として語り継がれている。

 そして今日では、町の中心に「ドングリ型UFO」のモニュメントが建ち、毎年「ケックスバーグUFOフェスティバル」が開催されている。事件は単なる謎を超え、地域文化の一部として生き続けているのだ。