幻想と現実のはざまを描くポーランド製UFOドラマ『プロジェクトUFO』――Netflix配信中

 2025年4月16日からNetflixで配信されたポーランド発のリミテッド・シリーズ『Projekt UFO』は、全4話構成の短編ながら、UFOと政治史、またSF的想像力を巧みに融合させた野心作である。脚本・監督を務めたカスパー・バヨンは、1978年に実際に起きたとされるUFO事件「エミルシン事件」を土台に、社会主義体制末期のポーランドを描こうと試みる。

歴史と伝説のはざまで

 物語の軸となるのは、ルブリン地方エミルチン村で農民ヤン・ヴォルスキが宇宙人と遭遇し、彼らの乗り物に招かれたという “ポーランドのロズウェル事件” とも呼ばれている事件だ。『Projekt UFO』はこのエピソードを忠実に再現しつつ、数々のポーランド発の超常現象・都市伝説を織り交ぜて展開させていく。実在の人物や出来事がモデルとなっており、UFOファンにとっては「宝探し」のような楽しみに満ちているだろう。

抜群のビジュアルとサウンド

 本作の強みのひとつは、そのスタイリッシュな映像美にある。スピルバーグ作品を思わせる光の演出、社会主義末期の陰鬱さと80年代ポップカラーを同居させる美術設計は圧巻だ。街並みや小道具の作り込みが極めて高く、まるで「見たことのないノスタルジックな SF 映画」のようだ。街に走る車から部屋の中の小物に至るまで、隅から隅まで目を潤すデザインで、視覚的な満足度は極めて高い。

 劇伴はピオトル・エマデ・ヴァグレフスキとフィス・エマデ・トヴォルジヴォのタッグ。ポストパンク~レトロフューチャーを行き来するシンセ・ビートが映像とシンクロし、ときに鳥肌すら誘う。配信限定サウンドトラックは4月18日にリリース済みだ。

ポリティカル・スリラーとしての側面

 『Projekt UFO』はまた、社会主義体制下におけるプロパガンダと情報操作の風刺劇でもある。UFO騒動を利用して政治的得点を稼ごうとする党幹部の姿や、報道を捏造するジャーナリストの描写は、体制の末期症状を皮肉たっぷりに浮かび上がらせる。つまりこの映画は単なるUFO物語ではなく、社会主義体制末期の不安と狂気を背景にした政治的寓話でもあるのだ。

総評:風変わりな傑作

 ただし、物語構造には明らかな弱点がある。UFO ファンであれば第 3 話までは高揚感を持って視聴できるはずだ。しかしながら、問題は最終話にある。一応 “謎解き” 的な構造にはなっているが、不明瞭でフラストレーションが残るのだ。『Projekt UFO』は、細部へのこだわりや文脈の深さにおいて一級であるが、ミステリーとしての完成度や物語の構成にはやや欠ける部分もあり、観る人を選ぶ作品だろう。

 だが、ポーランドのUFOに関心のある人にとっては、このドラマはかけがえのない作品となるはずだ。表現として、UFOのコアに触れるような鋭さもあり、特に劇中登場する MIB の表現は秀逸で思わず笑ってしまったことを最後に記しておこう。

▶Netflix『プロジェクトUFO』

エミルシン事件――“ポーランドのロズウェル事件”

 1978年5月10日の朝、ポーランド・ルブリン県エミルシン村で71歳の農夫ヤン・ヴォルスキ氏が荷馬車で帰宅していると、黒い宇宙服のような服装をした背の低い二体の人物が現れた。彼らは鋭い「キーン」という高音で意思を伝えてきたため、困惑したヴォルスキ氏はその人物たちについて約300メートル進んだ。すると地上4〜5メートル上空に銀色の飛行物体が静かに浮かんでいるのを発見した。その飛行物体の底部から小型のエレベーターのような足場が降下し、一人の宇宙人が現れてヴォルスキ氏を手招きして内部へと招待した。恐怖と好奇心が入り混じる中、彼がその足場に乗り込むと飛行物体の内部に運ばれ、そこで何らかの検査を受けたという。この出来事は後に「エミルシン村UFO事件」として知られるようになり、“ポーランドのロズウェル事件”として記録されている。