NHK Eテレ『UFOの正体 ~科学者たちが迫る最前線~』最速レビュー

 8月2日19時からNHK Eテレ「地球ドラマチック」で放送された『UFOの正体 ~科学者たちが迫る最前線~』(原題:What Are UFOs?/PBS「NOVA」)は、近年新たに注目を集めるUFO/UAPを、この研究の最前線で活躍する人物を集めて、歴史的背景と最先端科学の両面から冷静かつ誠実に解説した秀逸なドキュメンタリーだった。

 Eテレの再放送予定と、NHKプラスのトライアル視聴で観ることができるので、興味がある見逃した方には是非観てほしいので、まずその情報を載せておこう。

NHKプラスのトライアル視聴 配信期限は8/9(土)午後7:44 まで
https://plus.nhk.jp/watch/st/e1_2025080233324

Eテレでは8月11日(月)午前0:00~再放送予定へ
https://www.nhk.jp/p/dramatic/ts/QJ6V6KJ3VZ/episode/te/QGNN233RXW/

ドローン騒動もUFO? 未確認という本質を見失わない視点

 まず番組冒頭では、2023年末から2024年初頭にかけてニュージャージー州で大型のドローンらしき飛行物体が多数目撃された「NJ謎のドローン騒動」が、UFO文脈の一例として紹介される。この取り上げ方には強く共感した。

 というのも、その正体が宇宙人の乗り物であろうと、イタズラ目的のドローンであろうと、正体が明らかでない限り、それは立派な「未確認飛行物体(UFO)」であるからだ。つまり、UFO研究とは「正体がまだわからないもの」を扱う営みであり、その本質を見失っていない導入だったということだ。

複数のドローンのようなものが、12月5日にニュージャージー州バーナーズビル上空を飛行しているのが確認された。(画像:Brian Glenn/TMX/AP)

ハイネック博士の葛藤と信念──「UFO=宇宙人」ではない

 番組前半では、ケネス・アーノルド事件やロズウェル事件などの代表的な出来事を軸に、UFO研究の黎明期と、その文化的・政治的影響を丁寧に紐解いていく。

 中でも印象的だったのが、アメリカ空軍がかつて運用していたUFO調査プロジェクト「ブルーブック計画」の科学顧問、J・アレン・ハイネック博士の紹介である。

 彼は当初、UFO現象に対して極めて懐疑的だったが、ブルーブックを通じて数万件におよぶ目撃報告に接するうちに認識を改め、やがて「この現象には何かがある」と確信を深めていく。そして、「UFOは必ずしも宇宙人の乗り物ではない」という立場を取りながらも、人生をかけてこのテーマに取り組み続けた。 その姿勢は、大衆に受け入れられることは少なかったが、「UFO=宇宙人」という単純な図式に縛られない視点の重要性を示唆していた。

J・アレン・ハイネック博士のイメージ

なぜ「UFO」から「UAP」へ? 言葉の変遷が語るもの

 実際、「UFO」という言葉そのものが、長年にわたって“宇宙人の乗り物”というイメージと強く結びつけられ、次第にオカルトや陰謀論的な文脈で語られるようになっていった。そうした風潮を受けて、近年ではより中立的な言葉として「UAP(未確認空中現象/未確認異常現象)」という呼称が導入されるようになった。

 番組では、そうした用語の変遷と、それが反映する社会的・科学的な姿勢の違いにもきちんと触れられており、ハイネック博士の視点ともつながる重要なポイントとなっていた。

「GIMBAL」映像をめぐる攻防──現代のUAPデバンカー、ミック・ウェスト登場

「GIMBAL」の映像

 中盤からは、有名なUAP事例を解析的に取り上げていく。

 まず紹介されたのは、2015年に空母セオドア・ルーズベルトから飛び立った海軍戦闘機が記録したUAP「GIMBAL(ジンバル)」の赤外線映像だ。映像内では、円盤状の物体が空中で回転しているように見え、その不可解な挙動にパイロットが驚く様子も音声で記録されていた。目撃の当事者である元海軍パイロットのライアン・グレイヴズ(Ryan Graves)によって当時が回想される。

ライアン・グレイヴズのイメージ

 一方、この映像に懐疑的な立場から異を唱えるのが、ミック・ウェスト(Mick West)である。

 ウェストは元ビデオゲーム開発者という異色の経歴を持ち、プレイステーションのゲームとして発売された『Tony Hawk’s Pro Skater』などのプログラミングを手がけていた人物だ。現在はMetabunk.orgという検証型フォーラムを主宰し、UFO映像や陰謀論を科学的に検証する活動を行っている。

 彼によれば、GIMBALの映像で物体が回転しているように見えるのは、実際に物体が回転しているのではなく、戦闘機に搭載された赤外線追尾カメラ=FLIRの可動マウント構造が動いたことによって、映像全体が回転して見えているにすぎない。これは機材の仕様による“視覚的錯覚”だという。

 彼の解析は、FLIR映像内に表示される数値(方位角、視野角、距離、追尾状態など)をもとに物理的再現性を検証したもので、複数の航空物理専門家からも一定の評価を受けている。一方で、こうした解釈に反論する専門家や元軍関係者もおり、番組ではこのような「両論併記」が丁寧に構成されている点が印象的だった。考えてみてほしい、戦闘機のパイロットは赤外線追尾カメラの性能など熟知しているはずで、それを見間違えたりするだろうか?

ミック・ウェストのイメージ

「チクタクUFO事件」の現場から──元海軍パイロットの証言

「TICTAC(FLIR1)」の映像

 続いて登場するのが、2004年にアメリカ西海岸沖で発生した、いわゆる「チクタクUFO」事件の当事者の一人である元海軍パイロット、アレックス・ディートリック(Alex Dietrich)である。彼女は訓練飛行中に、レーダーからの指示を受けて不可解な空中物体を視認し、異常な動きをした「白く細長い物体=チクタク」を目撃した。

 この事件は、同僚パイロットであるデイヴィッド・フレイバーの証言とあわせて有名になったもので、番組ではその一部始終が簡潔に紹介される。

 この「チクタク事件」の映像もまた公開されており、ミック・ウェストはこれに対しても検証を試みている。 彼の見解では、海面近くに見えるこの物体の動きは、実際には不可解な動きをしているわけでなく、撮影側の戦闘機が急旋回やズームを行ったことによって、まるで物体が跳ねるように動いて見えているにすぎないとする。ウェストはこの現象を説明するために、模型とカメラを用いた再現実験まで行っており、「チクタクが急加速した」という印象は、カメラと背景の相対的な動きによる錯覚であると説明する。

元海軍パイロットでチクタク目撃者アレックス・ディートリックのイメージ

「分裂するUAP」は本当にあったのか?──プエルトリコ事件の検証

「プエルトリコ事件」の映像

 さらに番組では、話題となった赤外線映像「プエルトリコの分裂するUAP」が取り上げられ、2人の専門家による解説が加えられた。

 一人は、NASAの「未確認異常現象独立調査チーム」にも参加する電子工学の研究者ジョシュ・セメター。もう一人が、元米国防総省のショーン・カークパトリック(Sean M. Kirkpatrick)だ。

 セメターは、赤外線映像で“分裂したように見える物体”について、「赤外線カメラの特性により、実際には2羽の鳥を誤認している可能性が高い」と説明。対象の温度と反射率によって錯覚が生じやすいことを示した。

 カークパトリックも同様の立場をとり、「奇妙に見える挙動の多くは、観測機器側の限界や誤認に起因している」と語った。番組ではこの見解を通じて、「UAPは“超常現象”とは限らない」という冷静な視点が強調されていた。

 なお、カークパトリックの登場は非常に重要である。彼は2022年から2023年末まで、米国防総省に設立されたUAP調査組織「AARO(全領域異常解決局)」の初代ディレクターを務めた中心人物であり、政府公式のUAP調査を担った立場にあった。だが、2023年末に突如として退任。その背景には、同年夏に元情報将校デイヴィッド・グラッシュが行った「政府がUFOを秘密裏に回収・分析してきた」とする爆弾証言にあるとされている。この件の詳細は後の機会に詳しく掘り下げるつもりだ。

元AARO局長、ショーン・カークパトリックのイメージ

UAP探索の新たなアプローチ

 番組の終盤では、今後のUAP研究に向けた多様なアプローチも取り上げられた。

 まず注目されたのは、ハーバード大学の天文学者アヴィ・ローブが主導する研究プロジェクト、通称「ガリレオ・プロジェクト」である。アヴィ・ローブは先に紹介した元AAROのショーン・カークパトリックとの共著で「UAPは母船から送り込まれた探査機かもしれない」という仮説論文を発表したことでも知られる人物である。

 このプロジェクトでは、AI(人工知能)を駆使して空に現れるあらゆる飛行物体を自動で分類し、「識別可能な既知の物体」を除外することで、真に未知なる存在=UAPの検出を試みている。

 未知を探す前に、既知を取り除くというこの手法は、まさに科学的アプローチの王道とも言えるものであり、UAP研究に新たな地平をもたらす試みとして注目を集めている。

 また番組では、こうした学術的な動きだけでなく、市民レベルでのUAP観測・共有の試みも紹介された。

 ニューヨーク・マンハッタンを拠点に活動するソフトウェアデザイナーとUFO研究家の協働によって開発されたこのスマートフォンアプリEnigmaは、目撃情報を地図上で共有・視覚化できる市民参加型のプラットフォームとなっている。

 このアプリの開発・運営を担うのは、ローレン・バトラー率いる民間企業であり、彼女は「空の異常は、もはや限られた専門家だけのものではない」と述べ、市民の観察力と科学的視点が交差する新時代のUAP研究を見据えている。

ミック・ウェストの分析が見落としているもの

 ただし、番組を見終えて強く感じたのは、「ミック・ウェストによる映像解析」があまりに印象的に配置されていたことで、事件そのものが「単なる誤認」であったかのような印象を視聴者に与えかねないという点だ。

 だが、そこにはひとつ重大な視点が欠けていた。それは「目撃者の証言」である。

 たとえば、「GIMBAL」事件において、ライアン・グレイヴズはこう語っている

「私たちの訓練空域では、ほぼ毎日のように正体不明の物体を目撃していた」

 彼は、それらの物体が既存の航空機とはまったく異なる挙動をしていたこと、そしてレーダー、FLIR(赤外線)、肉眼という三重の検出手段で確認されたことを強調している。また、映像には1機しか映っていなかったが、実際にはレーダー上で複数の物体が存在していたとも証言している。

 さらに「チクタク事件」に関しても、デイヴィッド・フレイバーおよびアレックス・ディートリックの両名が、現場での不可解な遭遇体験を具体的に語っている。彼らの証言によれば、目撃された物体は、飛行制御不能な気象観測機器や自然現象では到底説明のつかない、高度な加速・停止・方向転換を見せていたという。

 つまり、ミック・ウェストの精緻な解析は、カメラ映像の構造的誤認を明らかにする上で重要ではあるが、それだけでは「事件の全体像」を語ったことにはならない。

 この番組が持っていた冷静で科学的な視点の中に、もう一歩だけ「目撃者の身体的・心理的体験」という人間の証言に対する重みを加えることができていたなら──その説得力は、さらに深いものになっていたに違いない。

Eテレ再放送予定とNHKプラスのトライアル視聴

NHKプラスのトライアル視聴 配信期限は8/9(土)午後7:44 まで
https://plus.nhk.jp/watch/st/e1_2025080233324

Eテレでは8月11日(月)午前0:00~再放送予定へ
https://www.nhk.jp/p/dramatic/ts/QJ6V6KJ3VZ/episode/te/QGNN233RXW/